少し前のことになりますが、９月１５日（月祝）午後の「刻々の誕生コンサート２０２５in京都」を聴きに伺いました。会場は京都府立文化芸術会館。私が最も多く出演している会場ですが、私たちの場合、観客はせいぜいが５割程度、平均４割という入りですが、このコンサートは、ほぼ満席で誠に羨ましい限りでした。コンサートは、あおい苑のなかまたちのミュージックベルから始まりました。障がいをもつなかまたちが、中島光一さんの指導で何十回、何百回も練習した成果が見える胸の熱くなる演奏でした。次いで、中島光一さんのヴォーカルとギター。「大きな歌」で知られる中島さんですが、大きな病気をされた後だけに失礼ながら歌えるのかどうか心配でした。どんなふうに歌うかよりもどんな心を表すかということの重要性を改めて知らされた思いです。その後は、メインの野田淳子コンサート。野田さんとは、４０年近いお付き合いですが、かつて「クリスタルボイス」と言われた透き通った声は、今やますます磨きがかかり、年齢を重ねるにつれて厚みが増した気がします。尋常ではないボイストレーニングとこれまでの生き方の積み重ねの成果だと思います。お聞きしていると温かい涙が溢れてきます。
　お馴染みの「歩き続けて」、「鶴」、「死んだ男の残したものは」はもちろん、全ての曲が選び抜かれ、磨かれたものばかりで、なみなみならぬ野田さんの思いがひしひしと伝わってきました。とりわけ今回は、本来の野田さんの持ち歌ではない曲が心に沁みました。中島みゆきの「糸」は佐久間順平さん（ヴァイオリン・ギター）と島田篤さん（ピアノ）のボーカルでの支えを得て、しっとりと優しさを歌い上げました。また、美空ひばりの持ち歌「愛燦燦」は出色でした。私は、率直に言って美空ひばりの歌は、嫌いです。あの人を見下すような声と歌い方は、小さいころから大嫌いで、この歌もあざとい歌い方に反発するだけの曲でした。それを野田さんは、感情を抑え気味に優しい歌い方で歌ったので、全く違った曲のようで、「こんな味わい深い曲だったのか」と目を開かれる思いでした。
　そして、「何という胸の痛みだろうか」。横井久美子さんの持ち歌ですが、横井さんを偲んだ歌。私は、何度も横井さんのこの歌を聞いておりますが、この歌の持つパッションと生き方を横井さんでないと出せない独特の表現で歌い上げる味わいは、余人の追従を許さないところです。この曲を野田さんは、横井さんとは全く違った解釈で歌い上げました。迫力のある生き方を示すのではなく、抑えた表現で清んだ深い思いで歌い上げ、その中で人間としての誠実さに裏打ちされた情熱を表現するという野田さんの世界がつくられていました。「刻々の誕生」とは、私も尊敬する岡部伊都子さんの言葉ですが、時々刻々に生まれ変わるという気持ちを何時までも忘れない心を持つ野田さんらしい曲になっておりました。
　素晴らしい時間をありがとうございました。

尾藤 廣喜（弁護士）